天草を旅して 沈黙の海


天草に旅をした。熊本市街から、クルマで約40〜50分で、右手に広大な海が見えてくる。穏やかな海で、湖のようにさざ波が細かくたっている。

夏の強烈な陽が射していた。

空は薄曇り気味の晴れで、対岸の島原半島はわずかに、おぼろげに、その輪郭を見せている。

「晴れていれば、くっきりと見えるんですよ、島原が」

と知人のS さんがハンドルを握りながら言う。

「海をはさんで、近いんですよ、天草と島原は」

「熊本県と長崎県で、遠いように感じますけどね」と

私ははるかな海の向こうに溶け込むように見える島原を、クルマの窓から眺めていた。

その後、私たちは、天草の本渡市にある、天草キリシタン記念館に行った。

そして、幸運なことに、一年に4回しか展示しない「天草四郎陣中旗」の実物に遭遇することができた。

島原の乱の際に、天草四郎を奉ずるキリシタン反乱軍が、陣中に掲げたもので、ジャンヌダルクの旗に匹敵するほど貴重なものだという。

そんなことは全く知らず、その旗をつぶさに見たのだが、右の上に、血痕のあとがあり、刀で切りつけられたあともある。幕府連合群が勝利したあと、鍋島藩が戦利品として持ち帰り、江戸時代を生き、現代に残った。

実物には、時の流れを確実に逆流させる魔力があり、キリシタン反乱軍が立てこもった原城の死闘の模様が脳内を激しく駆け巡った。なによりも、その旗のもとに集い、たとえ死んでも神の国に行けると信じた、数万のキリシタンたちの思いが身を震わせた。

昨年は、長崎と五島列島を旅し、空気のなかに漂うキリシタンの魂を秘かに感じつつ時を過ごした。その旅も、ある意味、偶然だった。

私はキリストの信仰を持たないが、今回の天草への旅をふくめ、「導き」を感じるのだ。

偶然が幾重にもからみあい、ひとつの織物となり、地図のように、行くべきところに私を連れて行っているように思った。

それは、何かの啓示なのではあるまいか。

帰り道、何カ所かのスポットに立ち寄った。

いつしか、夕焼けの気配があたりに立ちこめ、海は昼間よりさらに静かな存在になり、はてしなく広がっていた。

その光景を見ながら、あることを思った。

キリシタンたちがろう城をし、最期を迎えた原城は、島原にある。

天草の数多くのキリシタンたちは、海を渡って、対岸の島原に行き、この戦闘に参加した。私は、島原の乱は島原のキリシタンたちが起こした反乱だと思っていたが、そうではなく、天草のキリシタンたちとの連合軍によるものだったのだ。キリシタン記念館で、その事実を初めて知った。

彼らは、最期の場所を求めて、海を渡った。

地面には道がある。多数の人間が通れば、そこには道ができる。

しかし、海には道ができない。通った跡を、なにも残さない。

だから、海は私たちに見せようとしない。

そこに起こったすべてのものを秘かに隠してしまう。

天草と島原の間に横たわる海は、黙っている。沈黙している。

しかし、耳を澄まそうとする、心あるものには聴かせるのだろう。

時間の流れのなかで、思いをかなえられずに逝った者たちの、

祈りの歌を。

#天草 #天草四郎


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